(きーすとーん71号より抜粋)
大人の遠足「秋の編」報告
  水と陸が交わるまち「オールド江別」を歩く

2015年10月23日および25日、『大人の遠足/秋の編』が催され、計61名の参加者が江別駅から千歳川にかけての界隈を探訪しました。
 17〜18世紀の文書や地図に「いへちまた」(江別太)という地名が登場します。 石狩川と千歳川が合流する一帯は、古くから人々が行き交う地として知られていたようです。 明治に入り、江別太に屯田兵村が置かれて「江別村」ができます。 1882年には幌内鉄道が開通し、江別駅が設けられました。

舟運盛んなりし頃の面影が残る千歳川河畔
布設の石造倉庫とともに再活用される元商家

 一方、1881年、樺戸(現在の月形町)に 集治監ができたことにより、石狩川の舟運による物資の輸送が始まります。 千歳川河畔には船着場が設けられ、水陸の結節点、交通の要衝となりました。 川辺には多くの倉庫が建てられ、商店や銀行などが駅周辺にかけて軒を連ねていたといいます。 “オールド江別”は、札幌のとなりまちの 奥行きの深さを伝えてくれました。

◆ 江別市大麻に住んで45年になります。 江別駅周辺に足を運ぶのは7月の『やきもの市』以外にはあまりないのですが、旧い建物がいくつか残っていることは記憶していました。 かつて江別駅付近には引込線でつながった火力発電所や製紙会社の大きな工場があり、たいそう栄えていました。 その後は大麻・野幌に中心が移り、次第に衰退していくのですが、幸いにして(?)再開発が進まなかったためか、趣ある旧い建物は解体を免れたように思います。
 古い地図を揃えていただいたおかげで、それらのことが確認できたとともに 新しい発見もありました。千歳川から船で石狩へ海水浴に行っていたこと、駅前に国道が通り「河川防災ステーション」方向へ橋が架かっていたこと、そして岩田醸造の創業者宅…などなど。嬉しかったです。改めて見直すと、江別にもお宝が眠っていますね。〈N氏〉

カフェレストランに生まれ変わった元銀行

◆ ふだん 何の思いもなく歩いている平凡な町並みも、専門家の話を聞きながら歩くと、そこには そこの歴史があり、空き家となっている建物も多かったものの、かつて人が営みを続けていた鼓動を感じた。
 ところで 千歳川の土手に立ったとき、脳裏をよぎった人物がある。 小樽や札幌から江別駅へと運ばれた物資がここで船に積まれ、石狩川を経て内陸部の空知の農村などへ向かったと聞いたが、たまたまその数日前、私は石川啄木の歌碑を求めて北村を訪ねた。 歌人が“鹿ノ子百合”と譬え、秘かな想いを寄せた女性、橘 智恵子が嫁いだ地だ。 彼女は札幌出身で、船に乗ってお嫁に行ったといわれる。 もしかしたら目の前の川を通ったのではないか…。 その頭に角隠しがあったかどうかはわからないが、人生の大きな節目に 新たな気持ちを抱いて 母なる川を遡ったのかもしれないと、当時の情景をオーバーラップさせながら、ひとり想像をふくらませた。〈M氏〉

昭和の風情をかもす「平和通」の時計店
煉瓦造では道内最古級の屯田兵火薬庫

◆ 初めて江別駅に降り立ったとき、駅前なのに静かで、高い建物が少ないと思いました。 駅前公園の煉瓦造のモニュメントとプラタナスの大木が印象的でした。 もし一人で歩いていたなら、単に寂れた街と思ってしまったかもしれませんが、郷土資料館の元館長 石垣さんの丁寧なガイドのおかげで、街に流れた歴史を感じることができました。 また、帰宅してから札幌建築鑑賞会で用意してくださった地図や資料を読んで、理解をより深められました。 スタッフおすすめの“れんがパン”もおいしくいただきましたよ。〈M氏〉

◆ 道内市町村の興亡が凝縮された地帯を見せられたような思いとともに、その後発展していった高砂・野幌・大麻地区との対比を考えたとき、歴史の必然性をも感じた遠足でした。
昨今、環境や安全面などの理由から旧い建造物が取り壊される風潮です。 煉瓦や石造建築などもまた然りで、風情があるものがなくなっていくとの感は否めませんが、遠足当日(25 日)、旧岡田家の倉庫で「コスプレ撮影会」に遭遇したことは印象的でした。〈N氏〉

醸造業で知られる岩田邸は端正な佇まい

◆ 以前、古い建物が残っていると聞いて江別にスケッチに出掛けたことがある。 旧岡田家を描いた際、門構えに大きく書かれた“外輪船”の文字に興味を覚えた。 かつて千歳川を往来していた蒸気船に因んで命名されたという。 後日、 河川防災ステーションを訪れ、北海道の産業の発展を担った江別の水運史を知った。 今回の遠足で船着場の跡を見学し、「倉庫は入口を川に面して建てられた」との説明に納得した。 堤防にひっそりと立つ“史跡 石狩川汽船 江別の水運と倉庫群”の標柱から国道12号に架かる新江別橋を望めば、橋上を車両が繁く行き交い、その音は風に乗り、葦をそよがせ、外輪船の汽笛や航跡が絶えて久しい川面を渡って行く。
 遠足は、レンガ造りの堂々とした旧江別郵便局、往時の繁栄を偲ばせる旧岡田家と玄関に構える巨大な金庫、モダンな石造りの旧第十二銀行、小振りながら道央最古を誇るレンガ造の屯田兵火薬庫、草むす製紙工場の引き込み線跡、端然とした岩田家などを次々巡り、興味は尽きなかった。 土産に買った名物“レンガ餅”を味わいながら、今日の“オールド江別”の静けさに諸行無常を想うのであった。〈S氏〉

※掲載の感想文は、紙面の都合上、原文から一部抜粋および要約させていただいた箇所などがあります。 ご了承ください。
※今回のおもな見学ポイント = 旧木村書店、ドラマシアターどもW(旧江別郵便局)、江別港と人力軌道の跡、旧大久保倉庫、筒井産業倉庫、旧高橋歯科医院、やきもの21(旧岡田家住宅)、アートスペース外輪船(旧岡田家倉庫)、OLD‐e#(旧第十二銀行江別支店)、鎮火の碑、江別市コミュニティセンター、湯浅メガネ宝石時計店、中央通、火薬庫、江別小学校、王子製紙江別工場専用線の跡、岩田家住宅・蔵、江別神社 ほか。

 

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