(きーすとーん72号より抜粋)

  札幌建築鑑賞会・札幌軟石文化を語る会 合同企画
   『札幌軟石再発掘作戦10周年記念展』を開催
10周年記念展会場風景

 2015年12月20日〜27日、北海道教育大学アーツ&スポーツ文化複合施設「HUG」(札幌市中央区北1条東2丁目/旧 勇崎恒次郎商店倉庫)において『札幌軟石発掘大作戦10周年記念展』を開催いたしました。
  軟石建物を中心として 約350枚の写真を展示したほか、札幌市域における推定築50年以上の建物の分布を 1/25,000地形図8枚で掲示。 期間中の23日には「トークセッション」を催し、北海道教育大学函館校の 池ノ上真一 講師(当会会員)から「地域の宝物に市民が気づくこと」について総括していただきました。
 記念展開催によって得られた成果を、以下の3点にまとめてみました。

 @ 展示期間中も「軟石の建物はまだ市内にある」という情報が寄せられ、現存数(築50年以上と推定されるもの)は、312棟に及ぶことが明らかになった。 これまで札幌軟石というと南区石山産という印象が強かったが、厚別川や精進川、真駒内川など広範な流域で採掘されていたことも判明した。

  A 地図上に示した軟石建物の分布の傾向から、市内各地の土地柄をうかがい知ることができ、札幌軟石が地域の歴史を読み解く手がかりであることを再確認した。 軟石物件が札幌のかけがえのない原風景であることが、来場した多くの市民の間で共感された。自らの足で現地を歩き、自らの眼と耳で軟石物件を探し確かめるという取り組みは、地域資源の発掘に市民が悦びと楽しみを見出す営みであった。

 B 軟石建物の持ち主の方も少なからず来場され、市民と所有者の間で、軟石に寄せる思いを共有することができた。 また、小樽の石造建物を調べた郷土史家や小樽軟石の研究者、島松軟石(北広島)の建物を調査した市民グループの方、さらには建築史や組積造建築、地質の学識者など、多彩な面々と交流を深められた。

 『北海道新聞』では、開催前、期間中、終了後の3回にわたって、本展示会のことを報じてくれました。 より多くの市民に、札幌軟石の価値を伝えるきっかけになったと思います。
 現存を確かめた312棟の軟石建物のうち、基礎的な情報(建築年や元の用途など)を掌握できたものは、まだほんのわずかです。 今回の展示は、いわば「判らないことが、判った」ようなものです。 今後も引き続き、基礎データの集積に努めたいと思います。 “大人の自由研究”はまだまだ遼遠です。  
                                                      杉浦正人(札幌建築鑑賞会 代表)


 
 EPISODE-1
 これまで、札幌軟石は「昭和戦前期までの遺物」と受け止められてきた向きがあります。 インターネット上では、「札幌軟石の利用は、戦後は激減した」というような記述も散見されます。
 しかし、私たちのこの10年間の調査をとおして、札幌軟石は戦後「激減」どころか、戦前にもまして多く使われてきたことが明らかになりました。 東区のタマネギ収蔵倉庫や南区の果物貯蔵庫などは、昭和20〜30年代にかなり多く建てられているのです。 調査結果を踏まえるならば、札幌軟石を「戦前の遺物」とみるのはステレオタイプな先入観であり、「昭和戦前から戦後をとおして脈々と受け継がれてきていた遺産」ということができます。 ※写真A参照

EPISODE-2
 南区石山東地区にお住いの元石工の地蔵 守さん(75歳)所蔵の古写真が、同地区に現存する住宅数棟の建築時の様子を写したものであることが判りました。
地蔵さんの本家の土地が 国鉄職員6世帯に宅地分譲されることとなり、住宅に軟石を用いることが、いわば建築条件とされたのです。 農閑期に石工をしていたご当人も、軟石の切り出しから積み上げに従事しました。 ご記憶によると、平屋の住宅を建てるのに、軟石は800才(1才は1尺立方、3才=1尺×1尺×3尺で建材に標準的な軟石の直方体サイズ)使ったといいます。 単価は1才で170〜180円ぐらいしたそうです。 昭和30年代、国鉄の職員が札幌の近郊にマイホームを建てるようになった世相が窺われます。木造で建てるよりも軟石のほうが、建築単価は安かったのかどうか、これは今後の考証課題です。 ※写真B・C参照

EPISODE-3
 JR「琴似」駅の北側にあった軟石建物の解体材が、中央区宮の森の住宅で、再生されていました。 昭和初期に建てられた「日本食品製造合資会社」の倉庫です。
 1994(平成6)年からは、フリースペース「コンカリーニョ」として 演劇などの空間に再利用されていました。 周辺地区の再開発に伴って2003(平成15)年に解体されたのですが、札幌軟石を惜しんだ持ち主のTさんが、近年、ご自宅の蔵に再々利用したのです。 今回、Tさんが展示会場に来られ、お伝えくださいました。 ※写真D・E参照          杉浦正人 

 

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