(きーすとーん70号より抜粋)
出張で5日間シカゴに来ています。 今回はタイトなスケジュールでほとんど自由時間がなく、必ず見にいこうと思っていたフランク・ロイド・ライトのロビー邸も、次回を楽しみにすることになりそうです。 そうしたシカゴ滞在での唯一の楽しみは、毎日ホテルから会場まで歩きながら街の様子を見ることです。 シカゴの街並みはどこか札幌に似ています。 広い碁盤の目の道路に立ち並ぶ高層ビル。 そして、何より興味を惹かれたのは、ちょっと札幌軟石っぽい灰色の石がいっぱい使われていることです。 ゆっくり見る時間はないけれど、『札幌軟石発掘大作戦』の隊員として その石のことは調べなくてはと思い、早速いろいろ情報を集め始めました。 シカゴの建物に主に使われているのは石灰岩(ライムストーン)でした。 なかでも多いのは、シカゴが属するイリノイ州の隣 インディアナ州で採れた「インディアナライムストーン(別称ベッドフォードライムストーン)」です。 インディアナライムストーンは結構有名で、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングのファサードにも使われているそうです。 実はこの石、建材の分類では「軟石」に含まれているので、同じ軟石ファミリーです。
さて、ここからが本題ですが、シカゴのライムストーン貼り石造建物のなかで、とくに1890年頃から1930年頃まで作られた個人住宅には、「グレイストーン(灰色の石)」という別名が付いています。 石とはいえ、材料というよりファサードにライムストーンを貼った歴史的住宅の様式(スタイル)を意味します。このグレイストーン建築は、シカゴ市民にとってアイデンティティであり文化遺産のようなものだそうです。
札幌と少し違うのは、行政すなわちシカゴ市が、グレイストーン建築の保存・継承のため大いに支援をしていることです。 イリノイ大学シカゴ校の報告書によりますと、2006年にシカゴ市は個人向けのグレイストーン修理資金として、100万ドル(約1億2千万円)の税金をTIF方式で提供することを約束しました。 TIFとは、事業完了後の固定資産税などの増税(見込み)を償還財源として 資金を提供する、アメリカ式の開発政策の一つです。 他にもイリノイ州の住宅開発局が33万ドル(約4千万円)の基金を提供したと報告書には記されています。 文化財でもない個人の財産、しかも住宅に対してここまで支援ができるのは、行政がグレイストーンを文化遺産として保存しようとする市民の意識を尊重し、さらに自らグレイストーンに強い愛情を持っているからだと思います。 『札幌軟石発掘大作戦』も今年で10周年。市民の手で掘り起こしてきた文化遺産 札幌軟石の分布図から、物件がなくなる速度が少しでも減るような支援があってもいいかなと思いながら、シカゴで最も有名なライムストーン貼り建物の一つであるシカゴ市役所の前を歩きます。 張 慶在(札幌建築鑑賞会スタッフ・札幌軟石発掘大作戦隊員)2015/4 札幌市公文書館所蔵のお宝 「朴沢家文書」 札幌市公文書館で、建築の古い図面を閲覧させてもらいました。 昭和50年代に市民から寄贈された『朴沢家文書』です。 朴沢家は大工の棟梁を務めた家柄で、明治から昭和初期にかけて当主だった朴沢雄治は、伊藤組のもとで札幌の独立教会、旭川の偕行社などの建築に携わりました。 下図(左)はその一つで、「札幌郵便局」の設計図の一部と思われます。 建物の正面を撮った写真(右)と比べてみると、アーチ型の窓やバトルメント飾りなどの意匠が酷似しています。 『朴沢家文書』には、札幌郵便局の「新築仕様書」も残っていました。 これには建物の細部にわたって詳らかに指示されており、とりわけ興味深かったのは、使用された石材に関する項です。 この郵便局が札幌軟石を用いて建てられ
『北海道における初期洋風建築の研究』で 越野武先生は 小樽の石造建築に言及され、建物の要所で硬度の高い石材を用いていることを述べています。 小樽の例に通じるものを 郵便局庁舎にも感じました。 『朴沢家文書』にはこのほか、「バチェラー学園」の写真など貴重な史料が含まれています。 詳細については、個人ブログ『札幌時空逍遥』で3月に紹介しておりますので、ご覧ください。 杉浦正人(札幌建築鑑賞会代表) |
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