(きーすとーん69号より抜粋)
      追憶の建物たち 2014

旧桂田邸(2013年撮影)
荒谷邸(2010年撮影)

 『きーすとーん』66号(2013年12月20日発行)の「追憶の建物たち2013」で、旧 丸一ビル、旧 桂田邸と荒谷邸について触れた。 残念なことに、そのいずれもが2014年、姿を消した。

旧 桂田邸(中央区南6条西26丁目)
 後に北大初の女性教授となる桂田芳枝氏の自宅として、1954年築。 1988年から若干の増築を施してレストランとなり、古民家再生のトップランナーとして愛されてきた。 そのレストラン『櫻月(サクラムーン)』が2011年11月に閉店。 季節は巡り、主なきとて見事に咲いていた庭のサクラだったが、今年は堅い蕾のまま、花を咲かせることができないまま、屋敷とともに運命を共にした。 4月初旬から取り壊し。 跡地にはマンションが建設中。

荒谷邸(中央区9条西8丁目)
 札響初代常任指揮者 荒谷正雄氏の住宅で、氏が設立した「札幌音楽院」でもあった。 昭和初期築。和風の玄関にドイツ壁、縦長の窓に下見板、後方には煉瓦の蔵が見えた。 なんとも味のある建物だった。 4月7日、当会会員の方のお骨折りがあり、解体間際の室内に初めて足を踏み入れた。 やかな春の光のさしこむ2階ホールには たくさんの楽譜スタンドやタクトなどが残り、亡き主の過去を物語っていた。

福山家 蔵(2005年撮影)

福山家 蔵(中央区南13条西5丁目)
 札幌画壇のサロンだった「アカガネ御殿」こと 中根邸のものであったろう軟石の蔵が、門や塀、そして庭の木々たちとともに失われ、福山邸だった土地には11階建てのマンションが建築されている。 蔵は一時、割烹料亭の蔵座敷だったこともあると聞く。 粋でお洒落なもてなしの場として、文化の発信に一役買ってきたことだろう。 南13・14条西5丁目は、かつて お屋敷街とも称された一画。 われわれ庶民は、大企業、大店、老舗と呼ばれる会社の社長宅のたたずまいに触れ、その敷地の広さや門塀の豪華さ、手入れの行き届いた植栽のようすにかすかな嫉妬と憧れの念を抱いたものだ。 そんな邸宅、少なくなった。さて、どうなる、I邸。

沼田家 旧 りんご倉庫(2012年撮影)

沼田家 旧 りんご倉庫(豊平区西岡4条10丁目)
 西岡は、昭和30年代まで りんご栽培が盛んだった地区。 煉瓦職人 長浦数雄さんが1953年に積んだという 美しいりんご倉庫の一つが、5月に解体された。 大きなアーチ飾り、稲妻蛇腹という飾り積み、アクセントの色タイルなど、国の登録有形文化財であったことがうなずける 美術品のような倉庫だった。
倉庫といえば、南2条東1丁目にあった玉木商店所有の軟石倉庫も春に解体。 さて、どうなる、伏古のM家の煉瓦建物群。


浅川商店(2013年撮影)

●このほか 北16条西4丁目の浅川商店の跡地はコインパーキングに、「デューク東郷」の表札がかけられた北大探検部のあった北14条西2丁目の一画には 10階建てのマンションが建つ予定。ともに 2013年6月の「大人の遠足」で歩いたところだった。 喫茶店『苺館』よ、どうかそのままで。
ヤサカ(大通西19丁目)、某政党の本部だった きかんし印刷(北6条西7丁目)、人形屋佐吉(南1条西6丁目)、セレクトショップKIKA(北3条西23丁目)も取り壊し。
そして、まちの見方、まちあるきの楽しさ、奥深さを教えてくれた 赤瀬川原平さんに 合掌。あなたの面影を追って、2015年もまちを歩きます!
          中村祐子(札幌建築鑑賞会スタッフ) ※写真:札幌建築鑑賞会

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