(きーすとーん69号より抜粋)
 札幌建築鑑賞会・札幌軟石文化を語る会 合同企画 
「札幌軟石再発掘作戦」 2014年 活動報告

隊員交流会〜札幌軟石の記憶を追う

住宅に使われた厚別川れ流域の軟石
(清田区真栄)

 郷土文化と融合し、街の情景 また記憶として確固たる礎を築いてきた札幌軟石。 2005年以来、札幌建築鑑賞会はそんな札幌軟石の重要さを認識し、その歴史と魅力、そして存在そのものを後世に伝えようと活動してきました。 私は、今年初めて『札幌軟石発掘大作戦』に同行させてもらいましたが、軟石の片鱗を一寸たりとも見逃さないメンバーの情熱と眼力は驚くべきもので、尊敬の念すら覚えた次第です。

 札幌軟石といえば 南区石山こと 穴の沢が主産地とされますが、厚別川沿いにも産したという 軟石を探索すべく、11月3日、寒風吹き 雪がちらつくなか、清田区有明および真栄の地を10名で訪ねました。 当地では 裏山から木を伐り出して小屋を建てるがごとき感覚で 軟石を自ら採掘して納屋などに使用していたことを聞かされ、これは私には衝撃的な事実であったと同時に、軟石が入植者にとって いかに重要であったかを再認識させられました。 しかも それが明治期にまで遡ることを知り、軟石が担った歴史の一端を垣間見る 貴重な体験となりました。

 札幌は、その成り立ちから 新しいものを是とする気質があり、古いものを顧みることは稀であったように感じます。 そして札幌軟石の建築物も、年を追うごとに加速度的に失われつつあります。 軟石は街の生業を記憶した存在であり、またその生き証人といえるでしょう。 軟石の建物は黙して語らない、“札幌人”の生き様を映しているにもかかわらず。 はたして 私たちは軟石文化の継承者となりえるか−石たちが そう語りかけてきているように思えてなりません。
                                    菊地敦司(札幌建築鑑賞会 スタッフ)

◆ ヒトナツの体験
 通信『きー すとーん』第66号、67号で報告した“アシリベツ軟石”に続き、札幌の他の河川域でも軟石採掘の歴史を確認しました。
 その一つが 精進川です。 この流域では 南区澄川389番地で採石されていたことが、郷土史の文献に記述されています。 現場近くの住民への聞き取りにより、その上流の駒岡(正式な町名では同区真駒内130番地付近)でも掘られていて、澄川と合わせ、少なくとも二箇所あったことが裏付けられました。 さらに、厚別(アシリベツ)川流域についても 新たな史実が判りました。

精進川流域の軟石物件(南区真駒内/南区澄川)

 こちらも、上流の清田区有明と 下流の同区真栄の複数箇所に採石場があったようです。 のみならず、支流の西真栄川や山部川(同区清田)でも 軟石を採っていたという情報を得ました。

 札幌軟石についてまとめると、次のとおりです。
 @石山(穴の沢)産 = 豊平川・穴の川・石山川流域、 A常盤産 = 真駒内川流域(現在も採石されている)、 B澄川・駒岡産 = 精進川流域、  Cアシリベツ(有明・真栄・清田)産 = 厚別川・西真栄川・山部川流域、 D島松産 = 島松川流域(これは地元で “島松軟石”と呼称されている)。

 結論的にいうと、「支笏溶結凝灰岩あるところ、川辺に札幌軟石あり」です。札幌軟石 = 南区の「石山」産、という先入観が根底から覆された今夏の体験でした。
軟石探訪については、個人ブログ 「札幌時空逍遥」 http://keystonesapporo.blog.fc2.com/ でも詳細を公開しています。併せてご覧ください。
                                         杉浦正人(札幌建築鑑賞会 代表)



        軟石未来プロジェクト 2014

1.地域活性化のカギの一つに
『軟石未来プロジェクト2014』は、東海大学札幌キャンパス(札幌市南区)が中心となって、軟石による地域活性化や新たなビジネスの可能性を探る実験的なプロジェクトです。 これまでに、札幌軟石の採掘場や建物を巡る「軟石バスツアー」(10月11日)や、北海道の軟石文化を紹介する「軟石セミナー」(11月16日/札幌市資料館研修室)を開催してきました。

辻石材工業採石場で石工体験
盛況だった軟石セミナー

 このプロジェクトには、札幌軟石文化を語る会、市内で唯一札幌軟石を産出している辻石材工業株式会社が参加しているほか、札幌建築鑑賞会の皆さんにもご協力いただいています。

2.セミナーで軟石文化を考察
 軟石に関する歴史・文化の研究、まちづくり、観光などの活動を実践している札幌、小樽、美瑛の方々をセミナーのパネリストとして迎え、「北海道の軟石文化〈これまで〉と〈これから〉」をテーマにお話をうかがいました。
 まずは 札幌石山で産出した“札幌軟石”について、札幌軟石文化を語る会 の岩本好正さんが四万年前の支笏火山噴火による軟石の誕生から採掘の歴史などを紹介。 次いで小樽市総合博物館学芸員の大鐘卓哉さんから、「小樽には桃岩産、奥沢産、手宮産など複数の産出地があるので、総じて“小樽系軟石”と呼ぶべきではないか」との興味深い話題提供がありました。 また、美瑛町政策調整課の石崎智大さんからは、同町駅前に新築する建物には 基礎や腰壁を“美瑛軟石”で統一する「建築協定」があることや、 「石蔵を解体した際の軟石は保管し、町民に再利用を推奨している」といったユニークな取り組みが紹介されました。
 さらには、採石場から出る大量の軟石のカケラを活用すべく 小物として加工・販売し、 障害者の自立支援につなげようという『軟石や』の小原 恵さんの試みも披露され、最後は東海大学国際文化学部デザイン文化学科3年の須永 涼さんが登壇。 『さっぽろオータムフェスト』に仲間と出品した札幌軟石のアクセサリーが好評だったという報告とともに、「軟石の魅力を知ってもらえば、新たなビジネスを生み出せるかもしれない」との力強い提案がありました。
 軟石とその産地がこれからも元気であり続けることを、本プロジェクトでは期待しています。
                            佐藤俊義(軟石未来プロジェクト スタッフ)

 

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