(きーすとーん61号より抜粋)

OPINION
建物の”記録と記憶”を後世に -王子サーモンをめぐって-

小紙前号で報じた「王子サーモン館」(中央区北1条西1丁目)は、新聞やテレビなどでも報道されましたとおり、本年2月に解体されました。 昨年12月、当会をはじめ4市民活動団体が関係機関(再開発準備組合、札幌市)に要望書を提出し、保存活用をめぐって6度にわたり話し合いを続けてきましたが、残念ながら望みはかないませんでした。 解体に至った経緯と今後の取り組みをお伝えいたします。

■なぜ解体されたか−
 直接的な理由は「耐震上の危険」です。 しかし、これは根本的な理由ではありません。 なぜならば、技術的には補強工事によって耐震強化することは可能だからです。 根本的な理由は、この建物を含む敷地で計画されている再開発事業で建物が支障となったことです。 言い換えれば、関係機関には建物の価値が認められず、建物を遺しながら再開発を進めることが不可能であると判断されたことです。 建物を所有していた企業(準備組合に加わるゼネコン各社)は、保存活用の予定の無い建物に補強工事の費用を投じることはできない、として、解体を急ぎました。

■教訓を今後に活かして−
 建物が解体されたのは、保存活用を求めた者の一人として無力だったことにほかなりません。 無力だったことの反省を今後に活かすことが、保存を求めた者に課せられた宿題のように思います。 その意味で、「建物解体=終り」ではありません。
歴史的建物の保存活用は、老朽化や土地利用など様々な事情で困難に直面します。 大切なのは、保存が困難な場合であっても様々な可能性を検討したり、解体のやむなきに至っても そこから教訓を学んだりする過程ではないかと考えます。 すぐに答えが出なくても、その営みを重ねることが札幌の街の魅力を増し、愛着を深めることにつながると思います。

正面玄関を縁取る札幌軟石と
玄関の対比が印象的だった・・

■“記録と記憶”の継承を−
 当会では、解体に先立つ本年1月29日、所有者の了解を得て 建物内部の見学調査会を催行しました。 併せて、その参加者をはじめとする有識者に「緊急アンケート調査」を実施し、3月、お寄せいただいたご意見を再開発事業の関係機関に伝えて、今後の計画の参考とするよう要請しました。
 また、ご意見に基づき、建物の意義を後世に伝えるため、当会が主体となって『王子サーモン館“記録と記憶”プロジェクト』を立ち上げました。 パノラマ映像、CG画像、立体模型など様々な手法で建物を記録するとともに、これから進められる再開発事業においても“土地の記憶”として活かしてもらうことを企図しています。 このプロジェクトに見込まれる経費(30万〜40万円)は、会員をはじめ広く市民にご寄付を呼びかけて捻出したいと考えています(詳しくは別紙「王子サーモン館“記録と記憶”プロジェクト ご寄付のお願い」をご覧ください)。引き続き、皆様のご協力をお願い申し上げます。 
                                      杉浦正人(札幌建築鑑賞会 代表)

 

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