北海道の古き建物たち  No.31    札幌建築鑑賞会    

           夏草の線路〜手宮線逍遙〜

 前回の幌内に引き続き、北海道最初の線路跡を歩いてみた。 手宮線は、廃線となった今でも小樽中心部を東西に走り、赤錆びたレールを晒している。 レールと枕木の間から雑草が眩しく茂る風景は、最も夏を感じさせる風物の一つだ。賑やかな観光地に、これだけ長い廃線が撤去されず静かに残っているのも小樽の良い所である。 夏は野外写真展が開かれたり、冬は「雪あかりの路」の会場になったりと、再利用方法も面白い。 廃線となったのは昭和60年。

 旧色内駅近辺は、近年遊歩道として整備された。 そこより東は陸橋が外されているので分断されているが、草に埋もれながら南小樽駅に続いている。
 小林多喜二の家は小樽築港駅のすぐ近くに商店を営んでおり、彼の勤務先の拓銀小樽支店は色内駅から運河方向に下るとすぐに見えた。 雪と坂の多い小樽で、こんなに便利な通勤経路は他にないと思う。 手宮線は、市民の生活に直接根付いた市内鉄道だったのだろう。 「郊外鉄道」である函館本線と、市内を走る「路面電車」の違いと言うべきか。
 遊歩道を越え、駅前通りを横切って更に西へ行くと、整備もされず近隣の人々の駐車場として使われたり、線路も荒れるに任せている。 草も腰高となりやがてレールも隠れるが、脚で探りながら進むと単線がいつの間にか複線になったり、ポイント切り替えのバーが残っていたりする。 そのうち右手に旧日本郵船小樽支店の後ろ姿が現れ、往時はこの建物裏の窓から、煙を吐いて進む機関車の往き来を見下ろせたのかと想像する。

 最後に線路は交通記念館(現在は閉館中)の旧手宮機関庫へと吸い込まれる。 道内初の鉄道の起点である。 もう片方の幌内駅と共に廃され、どちらも博物館化されているのも皮肉に似ている。
 鉄柵の向こうにはターンテーブルがある。 石炭や貨物が、この先の桟橋から海に運ばれたのだろう。
 歩くだけなら片道所要30分、2往復して描いた。 途中で出会った犬4匹、猫8匹。
健脚な方は餌とスケッチブックを持って、是非。

【小樽市色内ほか】

絵と文 椎名次郎
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