北海道の古き建物たち  No.26    札幌建築鑑賞会    

         帯広 CINEとかちプリンス劇場

 帯広所用の折、懇意にしているCINEとかちプリンス劇場に立ち寄った。 築54年のこの映画館は、まずファサードが素晴らしい。 劇場建築というべきか、三本の飾り柱が目を引く。 外国の劇場をモデルにしたかのようである。
 建てられた当時、1階は廉売だったらしい。 今も複数の店舗や事務所が寄生するように入居していて、言われてみれば面影を感じなくもない。 劇場には右の階段を上がって入る。 建築当初は建物中央に入口用の階段があり、映画を観終えた客が右の階段を下りた。
 元々は夷石興行が経営する館だったが後に手放す事になり、2003年11月に自主上映団体であるCINEとかちがこれを引き継いだ。 代表の豊島晃司氏によると、以前から老朽化が目立っていた建物を購入するには多少の困惑もあったという。 館内の椅子のバネは抜け音響も使い物にならなかった為、以後改装や修理を重ねながら今日に至っている。  暖房面の不安は膝掛けで補った。客席の天井も古めかしくて良い。
シネコンでは許せない事もここなら許せる。

 館内業務一切の運営は全てボランティアによって賄われており、どのスタッフも外に仕事を持ちながら働いているため、日々の営業の困難は外部からは推し量れぬものがあろうと思う。 映写機は3000フィート切り替え式の富士セントラルF6型で、音響はモノラル。 上映も経験者に教わりながらボランティアスタッフが行うので、筆者が技術講習に伺ったりもした。
 客席数は115席だったものをリニューアル後は80席とした。 ゆったりして、良い椅子だった。 スタッフの努力による賜物だろう。
 帯広では嘗て、シネコンチェーンのワーナーマイカルがこの町に出店を企てた時、市民が意見を出し何度も話し合って遂に進出を阻止した経緯がある。 結果的にこの劇場が夷石興行から移行すると同時に、太陽グループのシネコンが帯広駅近くにできてしまったが、こんな勇ましい歴史があったことはもっと注目されて良いはずだ。 長く続いてほしい映画館である。

【帯広市西1条南9丁目】

【絵と文 椎名次郎】
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